新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ECシフトが加速している百貨店業界。ギフトやお取り寄せグルメといった百貨店が強みとする商品に加え、日用品や化粧品、アパレルなど自家消費の商品も積極的にオンラインで販売する動きが広がっています。オムニチャネルやオンライン接客など、新しい販売手法を取り入れる百貨店も目立ち始めました。
デジタルシフトが急速に進む百貨店業界において、顧客から選ばれるECサイトを実現するには、どのような機能が必要なのでしょうか。百貨店ECサイトを中心に数多くのECサイトを構築してきた弊社の現役エンジニアが、百貨店を取り巻く市場環境を踏まえ、百貨店ECサイトに必須の6つの機能とECベンダー選びのポイントを解説します。
コロナ禍で変わる百貨店EC、デジタルシフトが加速
2020年4月以降、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの影響で百貨店の来店客数が大きく減少したため、百貨店各社がEC事業を強化しました。ビデオチャットツールを使ったオンライン接客といった新しい試みに取り組む百貨店もあれば、店頭商品のデジタルカタログ化、SNSを活用したECサイトへの誘導から旧来の電話注文への誘導など、ECサイト運用の基本的な施策への対応を急がざるを得ない状況になりました。
かつてはギフトが中心だった百貨店のECサイトは、ギフト以外の幅広い商品もECサイトで扱うようになり、実店舗の商品をオンラインでも販売するなど、販売チャネルとしての役割も変わりつつあります。
各百貨店の取り組み例
三越伊勢丹の取り組み
2020年6月にアプリをリニューアルしてEC機能を実装。販売員によるチャット接客やZoomを使ったオンライン接客、店頭接客の事前予約サービスなども開始。
阪急阪神百貨店の取り組み
店頭で販売している商品を注文し、自宅で受け取れるオンラインサービス「Remo Order(リモオーダー)」を2020年5月に開始。ECサイト非掲載の商品を含め、店頭の商品を掲載したWebカタログもオンライン上で公開。
高島屋の取り組み
2021年8月にオンラインショップをリニューアル。スマートフォンサイトの利便性向上、衣食住に関する商品提案、パーソナライズ機能、ライフスタイル提案型コンテンツなどを強化。
京王百貨店の取り組み
「NET de PAY」は京王百貨店 新宿店で扱う化粧品などを、来店不要で買える新しいサービス。ネットで取り扱いがない商品を注文したい、来店しなくても店員に相談して購入したいといったニーズに対応できる。
東武百貨店の取り組み
東武百貨店池袋店では、店頭で販売している化粧品やアパレルなど一部商品の「電話注文サービス」を2021年3月18日に開始。また同日から、携帯電話やパソコンのビデオ通話で商品を紹介し、買い物の相談に乗る「ビデオ通話接客サービス」も実施している。
ジェイアール東海高島屋の取り組み
ジェイアール名古屋タカシマヤでは、オンラインでは取り扱いのない商品を来店せずに購入できる「リモショピ」を実施。顧客は購入を希望する商品を電話で伝え、商品の在庫が店舗にあれば、注文ページのURLが顧客のスマートフォンにショートメールで届く。注文ページの指示に従って注文完了と決済(クレジットカード決済)を行う。
京阪百貨店の取り組み
京阪百貨店の精肉売り場で扱っている精肉を、オンラインで計り売りするサービスを実施。ECサイト「京阪百貨店オンラインショッピング」の精肉ページで商品を選択し、個数(グラム数)を指定して注文する。守口店では店頭受け取りが可能。
百貨店業界のEC売上高は軒並み増収
2020年度の百貨店業界では、EC売上高を大幅に伸ばした百貨店が目立ちました。お中元、お歳暮を中心としたギフトやお取り寄せグルメなどの需要が拡大したほか、コロナ禍でネットショッピングの利用が広がり、新規顧客も増加しています。
各百貨店のECのみの売上高実績
- ・三越伊勢丹ホールディングス(2021年3月期) 315億円 前期比157%[1]
- ・エイチ・ツー・オー リテイリング(2021年3月期) 84億円 前期比186%[2][3]
- ・高島屋(2021年2月期) 297億円 前期比159%[4]
- ・西武・そごう(2021年2月期) 50億4,100万円 前期比123%[5]
百貨店ECサイトに必要な6つの機能
百貨店は独特の商習慣が多いことに加え、顧客の期待値も高いため、ECサイトにも独自の見せ方が必要になります。ここでは、百貨店特有の商習慣に対応するために必要な6つの機能を解説します。
①イベント管理(催事管理)
百貨店のECサイトではお歳暮やお中元、母の日、父の日、クリスマス、お正月など季節ごとのセールや、ご当地フェアなど、さまざまなイベントが開催されます。商品や販売期間、配送の時期、店頭受取の可否などの販売条件はイベントごとに異なるため、その販売条件をイベントごとに設定や管理する機能が必要です。
百貨店の店頭で開催されるイベントは、フロアや売場ごとに企画し、管理することがあります。ECサイトでも同様に複数のイベントを展開する場合、イベント対象商品のEC売上高を、担当部署ごとに振り分けることや商品単位で集計する必要が出てくることもあるでしょう。さらに、商品の送料やお届け日、販売期間、店舗受取の有無などの販売条件をイベントごとに設定しなくてはいけません。
こうしたイベント特有の問題を解決する方法として、カートページをイベントごとに分ける(複数のイベントの商品を同一カートに入れられないようにする)といった対応策があります。カートページを分けない場合は、商品にイベントコードを付与し、売上高を担当部署ごとや商品単位ごとに自動的に振り分ける方法もあります。
このように販売条件や売上データをイベントごとに管理する機能をECサイトに実装すると、受注後の集計処理を手作業で行う必要がなくなり、業務効率化とミスの防止につながります。
②自社カード優待の対応
百貨店ECでは一般のクレジットカードだけでなく、百貨店の自社カード会員に対してポイント還元や割引などの優待を行う機能も必要です。カードの種類や会員ランクに応じた特典を用意することで、優良顧客の囲い込みなどにつながります。
カードの顧客情報に応じた特典を適用させるには、クレジットカード番号で本人を特定する方法や、カード番号のレンジ(カード発行会社ごとに割り当てられる番号帯)でカード発行会社を識別する方法、カードに記載されている自社の顧客番号などで判別する方法があります。
なお、顧客のクレジットカード番号をEC事業者が保持するには、PCI-DSSに準拠する必要があるため、カード番号そのものをEC事業者が参照することは難しくなりました。EC事業者はカード情報を保持せず、カード情報を文字列(トークン)に置き換え、決済代行事業者へ通信を行うのが一般的です。
③ギフト注文機能
百貨店ECにおいて外せない機能の1つがギフト注文機能です。包装形態の選択、のしの有無、複数の配送先の設定、名入れ、配送日時設定など、店頭のギフトカウンターで提供しているサービスをECサイトでそのまま提供するイメージです。
お歳暮やお中元を贈る場合、法人では数十件から数百件送ることも珍しくありません。配送先の住所をCSVでアップロードできる機能があると、配送先の多い法人顧客の利用を促進できるでしょう。
また、同じ相手に複数回ギフトを送るケースを想定し、配送先住所を登録できるアドレス帳機能があると顧客にとって便利です。ちなみに「HIT-MALL」は、店頭のギフトシステムと連携し、店頭のギフトカウンターで登録した配送先住所を電話番号で呼び出し、ECサイトの配送先として使用する機能をオプション機能としてご用意しています。過去にギフトカウンターで注文したことがある配送先にもう一度ギフトを贈る場合、改めてECサイトで配送先住所を入力する必要がなくなり、店頭へ行かなくても注文できるため、ECサイトにおける顧客利便性の向上につながります。
④外部システムとの連携機能
百貨店がEC事業に取り組む場合、実店舗のギフトシステムや、会員・ポイントシステム、会計システムなど、さまざまなシステムとECサイトを連携する必要があります。受注処理や出荷指示を自動化するには、WMS(倉庫管理システム)や配送会社のシステムとの連携も欠かせません。
質の高いサービスを提供する百貨店ECサイトでは、外部システムとの連携が必ずと言って良いほど発生します。そのため、フルスクラッチでECサイトを構築するか、カスタマイズが可能なECパッケージシステムを使ってECサイトを構築するのが一般的です。カスタマイズできないASPカートでは、機能が充実した百貨店ECを実現することは難しいと考えてください。
⑤ページ公開前のプレビュー機能
ECサイトの商品ページや特集ページを公開する前に、表示内容を確認するプレビュー機能も必要です。商品の説明文や写真、使い方の説明、原産地表示などに誤りがないかチェックするのはもちろんのこと、店頭での表示項目と同様に食品衛生法や薬機法、景品表示法といった関連法規の法務確認も必要でしょう。特に食品は賞味期限やアレルギー成分など、表示ミスが許されない項目も多く、厳格なチェックが必要です。
百貨店は「商品の質が良い」「安心安全で信頼できる」といった信用力が強みです。それはECサイトにも言えることであり、期待を裏切らないためにも、ページ公開前のプレビュー機能は必須です。なお、HIT-MALLではページ公開前に内容をチェックできるテストサイト機能が備わっており、公開前に担当者や法務部門、取引先などへの事前確認を行うことができます。
⑥複雑な商品マスタ管理
百貨店の商品マスタに登録されているデータ項目はJANコード、商品コード、販売価格(上代)、仕入価格(掛け率)、サイズ、素材、原産地、賞味期限、ポイント付与率、配送条件、売上計上部署(売場)など多岐にわたります。ECサイトで決済する際は商品マスタを参照し、商品価格や割引率、ポイント付与率、配送条件、温度帯の区分、消費税率などを適用します。このように商品マスタが複雑なため、百貨店のECサイトには百貨店特有の複雑な商品マスタを管理できることと連携できる機能の両方が必要です。
百貨店ECサイトを構築する際のシステム選びのポイント
ここからは、百貨店がECサイトを構築する際に、ECベンダーを選ぶためのポイントを解説します。
百貨店のビジネスモデルを熟知している
百貨店のECサイトは、ビジネルモデルや在庫の持ち方が一般的なECサイトとは異なる部分が多いため、ECサイトのことだけでなく百貨店のビジネスモデルそのものを熟知しているECベンダーを選ぶことが重要です。
例えば、百貨店では店頭で在庫を持たず、商品が売れた時点で仕入れを起こし、売上高を計上する「消化仕入れ」が広く採用されています。このような百貨店独自の商慣習があるために、実店舗とECサイトの販売商品の共通化や、在庫データの一元化、またオムニチャネル化を進めるには、一般的な小売企業と同じようにEC化を進めることが難しい背景もあります。 ただシステムの構築をするだけでなく、百貨店の事情を理解した上で解決策を一緒に考えてくれるECベンダーとともに、時間をかけて要件定義をすることが、百貨店ECサイトを成功させる重要なポイントです。
百貨店ECサイトの構築実績が豊富
ECベンダー選びでもっとも重要なポイントは、百貨店ECサイトの構築実績が豊富なベンダーに依頼することです。この記事で解説してきた通り、百貨店ECサイトは独特の機能開発が必要であり、ECサイトと連携する外部システムも多岐にわたります。要件定義を行うだけでも非常に困難な作業になることが珍しくありません。
一方で、システム化により莫大な開発コストがかかる機能は、無理に開発せずに運用でカバーするという判断も必要です。開発のメリットとコストのバランスをとりながら、現実的かつ効率的な要件定義を行うには、百貨店のECサイト運用の裏側を理解しているベンダーに任せるのが良いでしょう。百貨店のECサイト運用をよく知っているからこそ、幅広い視点から質の高い提案を受けることができます。
ECサイトの役割を見直してピンチをチャンスに
百貨店業界の市場規模は2020年に大きく落ち込みました。しかし2021年11月現在、緊急事態宣言が明け、いよいよ実店舗における買い物の需要拡大も期待できる状況です。百貨店の強みである対面販売のアクセルを踏みつつ、コロナ禍で広がったオンライン販売も引き続き注力していく。そういったビジネスモデルの進化が求められるのではないでしょうか。
実店舗に近いサービスレベルをECサイトでも実現するため、実店舗とECの連携を強化する百貨店や、百貨店の強みであるきめ細い接客を、ECサイトに活かすためにオンライン接客へ活路を見出す百貨店も増えています。ECサイトの役割を見直し、ECサイトを足がかりに未来を切り開いていくために、市場環境の変化にも対応できるベンダー選定を意識しましょう。
アイテック阪急阪神はECサイトの構築と運用で20年以上の経験を持ち、百貨店のEC事業の売上拡大を支援してきました。この記事でご紹介したような百貨店ECサイトに欠かせない機能をご提供するのはもちろんのこと、自社独自の取り組みをECサイトで実現したいといった課題や、百貨店ECサイト運用のノウハウのご相談など、百貨店ECサイトに関わる課題をお持ちの方は、弊社にご相談ください。