自社ECサイトのシステムをリプレイス(乗り換え)する場合には、既存のECシステムに蓄積されている商品データや会員データなどを新しいシステムに移行する必要があります。
その際、既存のECシステムのデータ形式と、移行先のECシステムのデータ形式が異なると、データをそのまま流し込めないなどといった問題が生じます。
そこで、ECシステムのリプレイスをスムーズに進めるためのデータ移行の手順と注意点について、EC構築パッケージ「HIT-MALL」のシステム担当者が、実際に携わったデータ移行の実例を踏まえて解説します。
まずはデータ移行の基本!必要な事前準備と注意点とは?
ECシステムをリプレイスするとき、移行するデータは主に「会員データ」「商品データ」「受注データ」の3つに分けられます。
これらのデータ移行は、次のような手順で進みます。
ECサイトのデータ移行ステップ
- ①既存のECサイトに蓄積されているデータの中で、移行するデータの対象範囲を決める
- ②移行するデータの量が、どれくらいあるのかを確認する
- ③移行するデータを既存のECシステムからエクスポートできるのか、またエクスポートしたデータを移行先のシステムにそのままインポートできるのか確認する
- ④エクスポートしたデータの修正作業やファイル名の変更などの作業を、誰が担当するか決める(ベンダーに委託する場合は見積を取る)
- ⑤上記を踏まえ、データ移行にどれくらいの時間と工数がかかるのかを検証する
管理画面からデータを抽出できるとは限らない
ECサイトのデータ移行をおこなう際は、既存のECシステムのデータをCSVファイルなどで抽出(エクスポート)し、移行先のシステムに流し込む(インポートする)のが一般的です。
ECシステムの管理画面にエクスポート機能が備わっていれば、データを取り出すのは簡単ですが、エクスポート機能が実装されていない場合は、システムベンダーにデータのエクスポートを依頼する必要があります。
データをエクスポートする方法や、エクスポートにかかる時間と費用は、ECシステムの仕様やデータ量によって異なります。移行したいデータを既存のECシステムから取り出せるのか、そして、どのようなデータ形式で出力されるのか必ず確認しておきましょう。
移行する「データ量」と「修正作業量」によって工数や費用が変わる
既存のECシステムのデータ形式と、移行先のシステムのデータ形式が異なる場合、データの修正作業が発生します。修正するデータの量に比例して作業工数が増え、ベンダーに作業を委託する場合は費用が発生する場合もあるため、修正にかかるコストとメリットを天秤にかけながら移行するデータの優先順位を整理することも大切です。
またエクスポートしたデータの一部が文字化けするなど、技術的に修正の不可能なデータが出てくることもあります。すべてのデータを移行できるとは限りません。
「会員データ」を移行するときの注意点
ここからは、ECシステムをリプレイスするときに移行することが多い「会員データ」「商品データ」「受注データ」のそれぞれについて、データ移行における注意点を解説します。
まずは「会員データ」の注意点について解説します。ECサイトで使用する会員データの中で、リプレイスの際に移行することが多いデータは次の項目です。
リプレイスの際に移行することが多い会員データ
- 氏名
- 住所
- メールアドレス
- 電話番号
- 性別
- 生年月日
- 会員ID
これらに加え、自社ECサイトで発行している「ポイント」や、購入金額などに応じた「会員ランク」、マイページの「お気に入りリスト」「アドレス帳」なども移行後のECサイトで利用する場合にはデータの移行が必要になってきます。
入力情報のフォーマットや表記規則を確認する
既存のECシステムで使用している会員情報の書式(フォーマット)が、移行先のシステムに合致するか確認することも必要です。
例えば、住所などの文字数(上限)や機種依存文字、半角・全角といったテキストのルールです。
会員データの確認項目
- 文字数
- 現在のECシステムで使用している住所や備考欄などの文字数は、新システムの文字数の上限を超えていないか。
- 文字化け
- 既存のECシステムで使用している文字コードと移行先のECシステムの文字コードは同じか。機種依存文字などはないか。(例:「①②③」といった機種依存文字、「髙(はしごだか)」)
- 半角・全角
- ローマ字や数字の「半角・全角」の表記ルールは一致しているか。
- 会員ID
- ログインなどに使用する会員IDは、メールアドレスか一意の文字列か。
休眠顧客や解約済みの顧客データの扱いを決める
休眠顧客や解約済みの顧客のデータを移行するか、それとも除外するかを決めることも重要です。
会員数が多いほど、既存のECシステムからエクスポートしたデータの修正が必要な会員データの件数も多くなることがほとんどです。修正が必要な項目が少なければ、すべての会員データを新しいECシステムに移行してもそれほど手間はかからないかもしれませんが、修正するデータの項目が多岐にわたる場合は、膨大な工数が発生する可能性があります。そのような場合、例えば過去2年以内に注文があった顧客のデータだけを移行するなど、データ移行の対象範囲を絞ることも検討するとよいでしょう。
パスワードやクレジットカード情報は移行しない
会員のパスワードは、ECシステムをリプレイスする際に移行しないことがほとんどです。一般的にパスワードは暗号化されて保持されており、パスワードの文字列を抽出することが難しいためです。
パスワードをどうしても移行したい場合には、既存のECシステムで使用しているパスワード認証のロジックを、移行先のECシステムにもそのまま適用するといった解決策があります。ただし、それには既存のECシステムのベンダーに協力を仰ぐ必要があるなどハードルも高いため、実際には行わないことがほとんどでしょう。
EC事業者の多くは、新システムにリプレイスしたECサイトをリリースした後に、会員に対してパスワードの再登録を依頼することになります。
また、ECサイトに決済代行サービスを導入している場合、会員のクレジットカード番号は決済代行会社が管理しています。ECシステムのリプレイスに伴って決済代行会社も変わる場合には、原則として会員のクレジットカード情報を移行することはできません。
個人情報の取り扱いに関する規約の変更内容を事前に周知
ECサイトをリプレイスするときは、会員の個人情報やパスワードなど機密情報の取り扱いに注意が必要です。
注文処理などの個人情報を取り扱う業務をアウトソースする場合、会員情報を運用代行会社に提供すること(会員情報の利用目的)をECサイトの利用規約などに記載しておくのが一般的です。ECシステムの移行に併せて運用代行会社を変更する場合は、運用代行業務の委託先の企業名の変更も忘れずに行いましょう。
会員の同意を取る実務上の方法は、移行前のECサイトの注文画面や会員ページなどに変更後の個人情報の取り扱いに関する説明を表示し、同意した会員のみ新しいECサイトに個人情報を移行します。
個人情報の取り扱いについて、詳しくは個人情報保護委員会より「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(外部サイト)」も出ていますので、ご参照ください。
ログインパスワードを再設定する方法
ECシステムを移行する場合、旧ECサイトで使用していた会員パスワードは新しいECサイトに移行できないのが一般的です。
パスワードの文字列は暗号化されているため、データベースに保存されているパスワードの文字列そのものをEC事業者やシステムベンダーが閲覧するのは難しく、新ECサイトにそのまま移行することができません。
そのため、新しいシステムのECサイトをリリースした後に、ログインパスワードを会員に再設定してもらう必要があります。パスワードの再設定を会員に依頼する手順は、主に次の2種類があります。
1.初回ログイン時に再設定する
新しいECサイトに会員が初めてログインする際、会員自身にパスワードを再設定してもらうよう依頼する必要があります。会員の本人確認はメールアドレスなどで行いましょう。
2.仮パスワードを発行する
既存会員に対して仮パスワードを発行し、初回ログイン時は仮パスワードを使用してもらいます。仮パスワードを長期間使用するとセキュリティリスクがあるため、初回ログイン後に新しいパスワードを再設定するよう促しましょう。
「商品データ」を移行するときの注意点
続いて、ECサイトの「商品データ」を移行する際の注意点を解説します。「商品データ」の中で移行する情報は次のようなものがあります。
商品データの中で移行する情報
- 商品名
- 商品画像
- キャッチコピー
- 商品説明文
- 価格
- スペック(色・サイズなど)
- 原産地表示
- 商品別送料区別
- カテゴリ情報
これらのデータを既存のECシステムからCSVファイルなどでエクスポートし、そのデータを新しいECシステムにインポートします。
既存のECサイトに登録されている商品データの項目と、新しいECサイトで使う商品データの項目の構成がそろっていれば、商品データの移行はそれほど難しい作業ではありません。
具体的な手順としては、商品データをCSVファイルなどで一括ダウンロードした後、データ項目の紐付け(既存のECサイトにおける「データ項目A」を、移行後のECサイトの「データ項目C」に対応させるなど)を規則的に行えるように、商品データを事前に整理しておきましょう。
新旧ECサイトのデータ項目が異なる場合の対処法
一方、新旧のECサイトにおける商品データの項目がそろっていないと、データ移行の作業が難航することも少なくありません。
例えば、ある商品の説明欄には商品の「賞味期限」が記載されていて、別の商品の説明欄には「YouTubeのタグ」が挿入されているなど、商品ごとにデータの内容がばらばらの形式ではデータを機械的に移行することが難しくなります。
こういった場合、まずは機械的に移行できるデータだけを旧サイトから取り出して新サイトに流し込み、イレギュラーな商品データは個別に手作業での修正が必要になります。
会員データと同様に、修正が必要なデータがあまりにも多いときは、移行するデータの対象範囲を絞ることも検討しましょう。
画像データを一括ダウンロードできるか確認する
ECシステムの仕様によっては、ECサイトに使用している商品画像のデータを管理画面から一括でダウンロードできない場合もあります。そういったECシステムから画像を一括でダウンロードするには、システムを提供しているベンダーに画像のダウンロードを依頼する必要が出てきます。もしベンダーが一括ダウンロードに応じてくれなければ、自社で画像を1点ずつ抜き出す必要があるかもしれません。
画像データを移行するときは「サイズ」に注意
商品写真など画像データを移行するときは、新旧のECサイトにおける画像サイズの差異を確認することが必須です。例えば、既存のECサイトの商品画像は正方形で、移行後のECサイトの商品画像は長方形であれば、商品画像をそのまま使うことはできません。
画像のサイズ(縦横比)がわずかに変わるだけであれば、すべての商品画像を同じ条件でトリミングするなど、一律で処理できる場合もあります。しかし、そういった機械的な処理が難しい場合には、商品画像を手作業で修正するか、新しい画像を用意することが必要です。
商品画像をすべて新しい素材に替えるには多大な工数を要しますので、移行後のECサイトのデザインを検討する際に、既存の商品画像を流用できるようなデザインにする、というのもひとつの有効な手段です。
画像のファイル名を変更する
画像データを移行する際は、画像のファイル名を移行先のECシステムの命名規則に従って変更する必要があります。ファイル名の変更は、一般的にEC事業者自身がおこなうことが多いですが、ECシステムのベンダーの中には、画像のファイル名をコンバート(入れ替え)する専用プログラムを組んで、ファイル名を変換してくれる会社もあります。
画像のファイル名の一括修正をサポートしてくれるか、新ECシステムのベンダーに確認するとよいでしょう。
「受注データ」を移行するときの注意点
次に、ECサイトの「受注データ」を移行するときの注意点を解説します。
ECサイトの受注データは、ECシステムをリプレイスする際に移行しないことも珍しくありません。ECシステムによって受注データの形式が異なり、データを移行するには膨大な修正作業が発生するため、費用対効果が合わないと判断するEC事業者が多いです。
ECサイトの受注データを移行することは技術的には可能ですが、費用対効果を踏まえ、データの移行が必要かどうかを判断してください。
データ移行なしでも「購入履歴の表示」や「購買データの分析」は可能
既存のECサイトの受注データをリプレイス後のECサイトに移行しないと、購入履歴の表示や購買データの分析などができなくなるという心配があります。
しかし、実際は旧システムの受注データを新システムに移行しなくても、工夫次第で購入履歴を表示することは可能です。
例えば、会員のリプレイス前の購入履歴を表示するための専用データベースを作り、新しいECサイトではそのデータを参照することで、マイページなどで購入履歴を表示することができます。
アクセス解析やBIツールの移行
Google アナリティクスでアクセス状況を収集している場合、同じアカウントで移行前と移行後のデータを継続的に分析することができます。
たとえば、注文完了ページなどコンバージョンとして設定しているページのURLに変更がある場合は設定の変更が必要なものの、Google アナリティクス上で移行前後の受注件数は合算して表示されます。
ビジネスインテリジェンス(BI)ツールなども同様です。受注データを使う目的に合わせて、最適な解決策を講じることで、データ移行の費用を抑えながら必要な機能を実現していくという発想を持つことが重要です。
データ移行の業務をシミュレーションし、移行にかかる時間を検証する
ECシステムをリプレイスする場合は、データ移行を伴うため、旧サイトと新サイトの切り替えの際、一定期間ECサイトを停止する必要があります。
旧ECサイトが稼働している最中に、できるだけ多くのデータを移行しておくことで、ECサイトの停止時間を短縮でき、売上の機会損失を減らすことができます。
旧ECサイトのデータを新ECサイトに段階的に移行する方法など、データ移行の具体的な作業をシミュレーションし、データ移行の最終工程(ECサイトの停止中に行う作業)にかかる時間を事前に検証しておきましょう。
データ移行のチェックポイントをおさらい
ここまでに解説したECサイトのデータ移行に関するチェックポイントをあらためてまとめます。
データ移行のチェックポイント
- 既存のECサイトのデータのうち、移行するデータと移行しないデータを整理する
- 移行するデータの量を確認する
- 移行するデータを、既存のシステムからエクスポートできるのか確認する
- エクスポートしたデータを移行先システムにそのままインポート、あるいは修正が必要か確認
- 「会員データ」「商品データ」「受注データ」を移行する際の注意点を踏まえ、データを移行するときに発生する業務をシミュレーションする
- データの修正作業や、ファイル名の変更など、必要な業務を誰が担当するか決める(ベンダーに委託する場合は見積を取る)
- データ移行に必要な時間を検証し、新旧ECサイトを切り替える際のサイト停止時間を確認する
データ移行の業務はベンダーに相談しながら行う
ECサイトのデータを移行する際に発生する業務の中で、エクスポートしたデータをインポート用に修正する作業や画像などのファイル名を変更する作業は、ベンダーに依頼すると費用が発生するのが一般的です。
データの修正作業をEC事業者とベンダーのどちらが担当するのか、また、作業をベンダーに委託するといくらかかるのか、ベンダーと契約する前に確認しておくのがベストです。こうした作業は「自社でもできる」と思いがちですが、実際に進めてみると注意点が多いものです。特に自社ECではこれらのデータが財産となるため、慎重に進めましょう。
なお、ECシステムのリプレイスを検討する際は、データ移行のサポート体制なども判断基準の1つに加えても良いかもしれません。実際、リプレイスの経験が豊富なシステムベンダーであれば、画像のファイル名を一括変換するプログラムを組むなど、データ移行がスムーズに進むように支援してくれることもあります。
ECシステムをリプレイスするのが初めての場合、データ移行の具体的な業務をイメージしにくいかもしれません。そういった場合は、疑問や不安に感じていることをシステムベンダーに相談しながら進めていきましょう。