インターネットを使って海外に商品を販売する「越境EC」は、販路拡大の手段として日本企業にも広がっています。特に2020年春以降は、訪日観光客が激減したことでインバウンド消費が落ち込み、海外の消費者に販売する手段として越境ECへの注目が高まりました。
一方で、「越境ECの始め方が分からない」「越境ECサイトの構築や、海外モールへの出店は大変そう」といった理由から、越境ECの実施に踏み出せないケースもあるでしょう。
そこで今回は、越境ECの特徴やメリットに加え、越境ECの始め方についても解説します。国内で運営している日本語の自社ECサイトを活用し、低リスクで越境ECを始める方法も紹介しますので、越境ECへの参入を検討する際の参考にしてください。
越境ECとは?
越境ECとは、インターネットを活用した国境を超えた電子商取引(EC)のことです。日本の消費者が海外のECサイトで商品を購入する、あるいは、海外の消費者が日本のECサイトで購入するように、国や地域を超えて商品を売買するのが越境ECです。なお、Cross Border Shoppingと呼ばれることもあります。
日本は人口が減少傾向で、国内の小売市場は将来にわたって大きな伸びが期待しにくいこともあり、海外市場を開拓する手段として越境ECは期待されています。
越境ECの市場規模
2020年における越境ECの市場規模は、日本から中国への販売金額が1兆9,499億円、日本から米国への販売金額は9,727億円でした。中国と米国への越境ECの販売金額は年々拡大しており、5年で中国向けは約1.9倍、米国向けは約1.6倍に拡大しました。[1]
日本から中国への販売金額
年度 | 販売金額 | 増加率 |
---|---|---|
2016年 | 1兆366億円 | 30.3% |
2017年 | 1兆2,978億円 | 25.2% |
2018年 | 1兆5,345億円 | 18.2% |
2019年 | 1兆6,558億円 | 7.9% |
2020年 | 1兆9,499億円 | 17.8% |
出典
越境ECが拡大している背景
日本から海外(主に中国や米国)への越境ECが拡大基調にある理由の1つは、越境ECのインフラ整備が進んでいることです。越境ECモールや国際配送サービス、海外決済サービス、外国語対応のコールセンターなど、越境ECに必要なサービスを提供するさまざまなベンダーが登場し、企業が越境ECに取り組むハードルは以前と比べて下がっています。
越境ECを利用する理由
海外の消費者は、どのような理由で日本の商品を越境ECで購入しているのでしょうか。日本貿易振興機構(JETRO)が公表した「中国の消費者の日本製品等意識調査」によると、中国の消費者が越境ECで日本の商品を購入した(したい)理由は以下の通りです。
なぜ越境ECを使って日本の輸入品を購入したか、したいか(複数回答)
- 「中国内では店頭で販売されていない製品だから」(69.1%)
- 「注文してから商品が届くまでの時間が短いから」(45.0%)
- 「ニセモノではないから」(42.6%)
- 「知人等からの口コミで購入しようと思ったから」(24.8%)
- 「日本に旅行をしたときに購入して気に入った製品だから」(21.6%)
- 「価格が安いから」(17.9%)
自国では買えない商品を越境ECで購入するのは、おそらく世界共通でしょう。「日本に旅行をしたときに購入して気に入った製品だから」が20%を超えており、訪日観光をきっかけに越境ECを利用する消費者も一定数存在するようです。2019年まで訪日観光客が増加基調にあったことが、越境ECの拡大にもつながっていたと読み取れます。
越境ECに必要な5つの要素
ここからは、越境ECに必要な事業環境について解説します。越境ECでは国内のEC事業とは異なる環境を整えなくてはいけません。最低限必要な要素は「売場作り」「言語対応」「海外決済」「国際配送」「関税、法律・規制への対応」の5つです。 越境ECを始める方法によって必要な事業環境は異なりますが、まずは越境ECの基本的な考え方を理解しましょう。
①売場作り
海外の消費者に商品を販売する「売場」を選択します。大きく分けると「越境ECサイトを自社で立ち上げる」「越境ECに対応したECモールやプラットフォームに出店する」「代理購入サービスを活用する(日本語のECサイトを越境ECに活用)」といった3つのパターンがあります。越境ECを始める方法について、詳しくは次の「越境ECの始め方 代表的な3つのパターン」の章で解説します。
②言語対応
ECサイトの商品ページや利用ガイド、注文フォームなどを外国語に翻訳する必要があります。特に注文フォームは、氏名や住所などの入力欄が海外販売に対応していないと海外の消費者は注文することができません。
海外の消費者に商品を販売するということは、海外の消費者からの問い合わせに外国語で対応する場面も出てきます。越境ECの事業規模を拡大するには、外国語が使えるスタッフを雇用するか、外国語対応のコールセンターに委託することも必要です。
③海外決済
越境ECではクレジットカード決済は必須です。そのほかにはオンラインバンキングや、「PayPal」や「Alipay」といったオンライン決済サービスもよく使われます。
販売先の国で利用率が高い決済手段を導入すると、カゴ落ちのリスクが下がり購入率の向上を期待できます。例えば中国ではAlipay、米国ならPayPalを導入すると良いでしょう。
なお、越境ECでは為替リスクにも注意が必要です。商品の販売価格を日本円で設定している場合、為替の変動によって顧客が支払う金額が変わる点も認識しておきましょう。
④物流
越境ECでは国際配送サービスを使う必要があります。主なサービスは日本郵便の「EMS(Express Mail Service、国際スピード郵便)」や「航空便」、ヤマト運輸の「国際宅急便」、佐川急便の「飛脚国際宅急便」、FedExの出荷サービスなどがあります。商品を出荷する際は、税関などに提出する書類(インボイスなど)の作成も必要です。
海外配送の送料は、配送先の国や地域によって大きく異なります。販売代金に占める送料の割合が大きくなることも越境ECの特徴です。送料の目安をECサイトに表示し、送料が確定した段階で金額を顧客に通知するなど、送料に関する顧客の不安を取り除くことも大切です。カートページにも表示させておくと、「カゴ落ち」を防ぐのに効果的です。
なお、越境ECの配送方法として、販売先の国の倉庫に在庫を一時保管し、ECサイトで注文を受けてから商品を出荷することもあります。この方法は、受注から商品到着までの日数を短縮できるほか、日本から現地の倉庫まで在庫を一括で輸送するため、商品1個あたりの送料を削減できる可能性もあります。ただし、現地の倉庫代や物流代行の委託費用が発生するほか、商品が売れ残った場合に在庫の廃棄リスクがあるため、越境ECの売上規模が大きくなってから現地の倉庫を借りるのが一般的です。
⑤関税、法律・規制への対応
国ごとの関税や法律・規制にも注意が必要です。国を超えた取引では、商品代金や送料とは別に関税がかかる場合があります。税率は販売先の国や商品の種類、販売金額によって異なります。また、国ごとの法律により一部の食品や医薬品、禁止成分が含まれている化粧品などが輸出入できないこともあります。EC事業者が知らずに販売してしまうと、商品が税関を通過できずに消費者とトラブルになるリスクがありますので、自社の商材やサービスが販売先の国で販売できるのか、まずは基本となる法律や規制に関して事前に確認しておきましょう。
また、個人情報の取り扱いに関する法律にも注意する必要があります。例えば、EU を含む欧州経済領域における個人情報の取り扱いを規定した「General Data Protection Regulation(GDPR)[2]」や、米国カリフォルニア州の消費者プライバシー法「California Consumer Privacy Act(CCPA)[3]」などがあります。越境ECを行う場合には個人情報保護の関連法規も確認してください。
参考
越境ECの始め方 代表的な3つのパターン
越境ECを始める方法は、主に3つのパターンがあります。「越境ECサイトを自社で構築する」「越境ECに対応したECモールやプラットフォームに出店する」「代理購入サービスを活用する(日本語のECサイトを越境ECに活用)」という3つです。
それぞれメリットとデメリットがあるため、越境ECに投資できる予算や、越境ECの売上目標などを踏まえて自社に合った方法を選ぶことが重要です。
①越境ECサイトを自社で構築
1つ目は、越境ECに対応した独自ドメインのECサイトを立ち上げる方法です。販売先の国・地域で使われている言語でサイト内のテキストを記述し、海外決済や国際配送にも対応したECサイトを構築します。
越境ECサイトを立ち上げる際は、海外向けの販売機能が備わった越境EC専用カートを利用するほか、フルスクラッチでの構築や、越境ECにも対応できるECパッケージを使ったサイト構築などが有効です。
サイト構築や翻訳、物流、配送会社との契約、顧客対応といった越境ECに必要な事業環境は自力で整える必要があります。また、外国語でのSEOやリスティング広告、アフィリエイト、SNS運用、コンテンツマーケティングなどで集客します。
メリット
独自ドメインのECサイトはデザインの自由度が高く、ブランドの世界観を表現しやすいことがメリットです。販売先の地域や取扱商品も自由に決めることができます。
デメリット
サイト構築や事業環境の整備といった大きな初期投資を必要とします。また、物流代行サービスやECサイトの運営代行サービスを活用する場合は委託費も発生します。海外で知名度の低い商品は売上が伸びるまで時間がかかり、集客のための広告投資も必要です。
②越境ECに対応したECモールやプラットフォームに出店
越境ECを始める方法の2つ目は、越境ECに対応したECモールやプラットフォームに出店(または出品)することです。世界190カ国で利用されている「eBay」、中国の大手越境ECモール「天猫国際(Tmall Global)」、東南アジアの「Lazada」や「Shopee」などがあります。
また、Amazonは北米や欧州、アジア、中東などでECサイトを展開しており、日本企業がAmazonの海外サイトに出店して越境ECを行うことも可能です。
そのほか、日本商品に特化した中国向けECプラットフォーム「豌豆公主(ワンドウ)」といったサービスもあります。
メリット
ECモールは販売ページやカート機能などECサイトに必要な機能が一通り備わっているため、自社でECサイトを構築する必要はありません。そのため初期投資を比較的安く抑えられます。また、物流や通関業務、集客、顧客対応などをモール運営会社に委託できる場合もあります。
ECモールの運営会社が集客のためにWeb広告やテレビCMなどを行うため、モールそのものに集客力があります。
デメリット
ECモールの出店料やシステム利用料、売上高に応じた販売手数料などがかかります。大手のECモールやプラットフォームには多数の企業が出店しているため、店舗同士の顧客獲得競争が激しく、モール内で広告を出さないと自店舗まで集客できないリスクもあります。
加えて、ECモールやプラットフォームは販売ページの基本レイアウトやUIがあらかじめ決まっているため、EC事業者が独自にUXを作り込むことは難しく、ブランドの世界観を表現しにくいこともデメリットです。
また、詳細な購入者の個人情報や属性情報までを把握できないことも多く、リピーターを獲得していくのが難しいというデメリットもあります。
自社ECとモールECのメリット・デメリットは、越境ECか国内ECかに関わらず共通する点がほとんどです。「自社EC構築とECモール出店における戦略の違いとメリット・デメリット」 の記事もあわせて確認してください。
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③代理購入サービスの活用(日本語のECサイトを越境ECに活用)
越境ECを始める方法の3つ目は、代理購入サービスの活用です。
代理購入サービスとは、海外の消費者が日本語のECサイトで商品を注文すると、代理購入業者がその商品をECサイトで購入(代理購入)し、海外の消費者に向けて商品を出荷するサービスです。
国内のEC事業者は、代理購入業者が購入した商品を代理購入業者の国内倉庫(出荷拠点)に向けて出荷、商品代金は代理購入業者から受け取ります。
国内で運営している日本語の自社ECサイトを越境ECにも活用し、EC事業者は国内事業と同じ業務フローで越境ECを行うことができるのが代理購入サービスの特長です。
代理購入サービスのビジネスモデルは、主に2つのパターンがあります。1つ目は、日本国内の自社ECサイトに越境EC用の注文フォームを実装する方法です。海外顧客からの注文データを代理購入業者に自動的に連携し、注文データを受け取った代理購入業者が顧客の代わりに商品を購入します。
2つ目は、代理購入業者が運営しているECモール(代理購入専用のECモール)にEC事業者が商品を出品(商品データを登録)する方法です。海外顧客がECモールで注文すると、代理購入業者が商品を購入して海外へ発送します。
メリット
越境ECサイトの構築費用やECモールの出店費用がかからないため、初期投資を抑えることができます。通関書類の作成や配送会社の手配などは代理購入業者が行うため、EC事業者が負担する運営の手間が軽いこともメリットです。
また、海外進出のテストマーケティングに活用できます。自社商品がよく売れる地域や、ユーザーのECサイトへのアクセス元の国を把握し、本格的な海外進出に向けたマーケティングデータを収集することができます。自社ECサイトに埋め込むサービスを利用する場合は、自社ブランドの表現や購入済み顧客の顧客情報の保有など、モールでは実現できなかったことを実現することができます。
デメリット
にタグを埋め込んでフォームを実装するサービスを利用する場合は、自力での集客が必要です。海外で知名度が低い商品の売上を伸ばすには、海外向けにリスティング広告やSNS広告などへの投資も必要です。この点は自社で越境ECサイトを立ち上げる場合と共通しています。
モール型の代理購入サービスは、モールそのものの集客力に期待ができますが、出品数が膨大でモール内で激しい顧客獲得競争がある点は、やはり越境ECに対応したECモールやプラットフォームに出店する場合と共通しています。
日本語の自社ECサイトで越境ECを簡単に始める方法
ここまでに越境ECに必要な事業環境や、越境ECの始め方について解説しました。ただ、始め方が分かっても、「商品が売れるか分からないのに、大きな投資はできない」という理由で越境ECに踏み切れないEC事業者も多いのではないでしょうか。
そこで今回、初期投資を抑え、簡単に越境ECを始める方法を紹介します。代理購入サービス「WorldShopping BIZ」を活用し、日本国内で運営している自社ECサイトを使って越境ECに取り組む方法です。
WorldShopping BIZとは?
WorldShopping BIZとは、現在国内で約1,300のECサイトが利用している代理購入サービスです。WorldShopping BIZを導入したECサイトで海外ユーザーが商品を注文すると、WorldShopping BIZが商品を代理で購入し、注文した海外ユーザーに向けて出荷します。
ECサイトにWorldShopping BIZのJavaScriptタグを設定するだけで、海外販売に対応したカートボタンがECサイトのフッター部分に表示されるようになります。海外ユーザーのIPアドレスやブラウザ言語を識別し、英語・中国語・日本語の中から最適な言語が自動で表示されます。
カートに商品を入れると、海外販売に対応した注文フォームが表示されます。顧客が注文を確定すると、受注データがWorldShopping BIZに送信され、受注データに従ってWorldShopping BIZがECサイトで商品を購入(代理購入)します。
WorldShopping BIZが商品を購入したら、EC事業者はその商品をWorldShopping BIZの国内倉庫(出荷拠点)に向けて発送します。商品を受け取ったWorldShopping BIZは、海外の顧客から商品代金が支払われたことを確認したうえで、検品、梱包、税関に提出する書類の作成などを行い、注文したユーザーに商品を発送します。
管理画面でマーケティングデータを閲覧
WorldShopping BIZは初期費用が3万円(税別)、月額費用が5,000円(税別)です。初期投資やランニング費用を抑えられることから、越境ECのスモールスタートや、海外進出のテストマーケティングにも適しています。
弊社の「HIT-MALL」で構築したECサイトにもWorldShopping BIZ を導入しているケースがあります。Peach Aviation株式会社様は2021年7月に、公式オンラインショップ「PEACH SHOP ONLINE」にWorldShopping BIZを導入して越境ECに対応しました。
Peach様のECサイト構築についての導入事例はこちらにインタビュー記事を掲載しています。自社ECサイトの構築にあたって、弊社サービスの導入の経緯と導入後の効果について、「コストダウン」「拡張性」「データ分析」「体制づくり」などをテーマにお話しいただいています。
ECサイトを運営しているが体制づくりができておらず、データ分析までできていない、将来を見据えて拡張性のあるECサイトにリニューアルしたい、といった悩みを抱えるEC事業者の参考になるでしょう。
自社ECサイトでブランドの世界観を海外に発信
越境ECを始めるために自社ECサイトを立ち上げると、サイト構築や集客への投資額がかかりすぎるという課題がありました。一方、越境ECのモールやプラットフォームに出店すると、店舗同士の競争が激しくモール内での集客に苦労することになるうえ、販売ページのデザインの自由度が低く、出店企業がブランドの世界観を表現しにくいという課題もあります。
こうした課題をクリアするために、代理購入サービスを利用するECサイトも増えています。特にブランドの世界観を海外に発信したい企業にとって、自社ECサイトを活用して越境ECに比較的簡単に取り組むことができる代理購入サービスは、有力な選択肢の1つになるでしょう。
SNSが世界規模で普及し、商品の口コミが国境を超えて広がる時代です。海外の顧客が商品を買えるようにしておくと、何かのきっかけで自社商品が海外で話題になった際に、商機をつかめるかもしれません。また、新型コロナウイルスの感染が収束し、訪日観光客が以前の水準に戻れば、観光をきっかけに越境ECで日本の商品を購入する海外の顧客が増える可能性もあります。そういったチャンスを逃さないためにも、越境ECへの参入を検討してみると良いのではないでしょうか。
「HIT-MALL」を知る
弊社アイテック阪急阪神がご提供するECサイト構築パッケージ「HIT-MALL」では、多言語に対応したECサイトの構築も可能です。国内向けの自社ECサイトからスタートし、将来的には越境ECにも販路を拡大したい事業者におすすめです。 >続きを読む