ECサイトは立ち上げて終わりではありません。むしろ、立ち上げてからがスタートであり、そこから売上を伸ばしていくことが重要です。売上アップというECサイトの目標を達成するため、KPI設定はできているでしょうか。
本記事では、ECサイトのKPIを設定することで、サイトの課題を見つけ、改善につなげるための6つのステップを解説します。
KPI設定の意義
KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、「重要業績評価指標」と訳されます。KPIを設定するためには、KGIが必要です。KGIとは「Key Goal Indicator」の略で、「重要目標達成指標」と訳されます。KGIは売上高や利益といった事業やプロジェクトの最終的な目標であり、KPIはKGIを達成するための各プロセスが適切に実施されているかを定量的に測るための指標です。
ECサイト運営の目的は売上を伸ばすことです。ECサイトの売上を伸ばすためには、サイトへの「セッション数」「CVR」「単価」を上げる必要があります。つまり、目標売上に対して必要なセッション数・CVR・単価が主要KPIとなります。
単に目標売上があるだけでは、その達成のために何を改善すべきで、どんな施策が必要なのか見えません。KPIを設定することで、日々のECサイト運営で何を改善すれば良いのか、目標売上に対して課題となっている部分がセッション数・CVR・単価のいずれにあたるのか判断しやすくなります。そして、課題を解消するための施策を行い、その結果と目標KPIを比較することで、仮説検証ができます。
ECサイトの課題の見つけ方
目標売上に対して必要なKPIを設定することで、目標達成を妨げている課題を探すことができます。この方法を、6つのステップに分けて解説します。
STEP1)理想像を描く
前章でも解説したとおり、KPIはKGIに対して設定します。そのため、まずはKGIを明確にします。
ブランディングの一環としてECサイトを運営しているというケースもありますが、多くの場合、ECサイト運営の目的は、売上を伸ばすことです。KGIとして、「いつまでに」「どのくらい」売上を伸ばしたいのか、理想とする売上金額を明確に定めましょう。
ECサイト以外の販売チャネルがメインであり、新たな販売チャネルとしてECサイトの運営を始めた場合などは、企業や事業全体の売上目標はあるものの、EC部門としての売上目標が決まっていない場合もあるかもしれません。そのような場合、業界のEC化率を参考にして、「事業全体の売上目標×EC化率」をEC部門の売上目標に設定するのも一つの方法です。経済産業省「令和2年度 電子商取引に関する市場調査」によると、物販系分野のBtoC-EC市場におけるEC化率は、2019年は6.76%、2020年は8.08%となっています。例えば、この実績を基に、事業全体の売上目標の8%程度をEC部門の売上目標として設定することができます。
ただし、BtoC-EC市場のなかでもカテゴリにより大きな差があります。EC化率が高いのは、書籍、映像・音楽ソフト(42.97%)、生活家電、AV機器、PC・周辺機器等(37.45%)、生活雑貨、家具、インテリア(26.03%)、衣類・服装雑貨等(19.44%)などです。このような実績も参考に、自社の扱っている商材に合った目標を立てましょう。
STEP2)理想達成を評価するKPIを設定
理想とする売上金額をKGIとして定めたら、その達成度合いを測るKPIを設定していきます。具体例として、昨年度の売上5億円だったECサイトが、今年度に売上10億円達成を目標とすると仮定して、解説します。
ECサイトの売上は、【セッション数 × CVR × 単価】で成り立っています。セッション数とは、どれだけの人がECサイトにアクセスしたかを表す指標で、CVRは、ECサイトにアクセスした人のうち、購入まで至る人の割合のことです。単価は平均購入単価で見積もります。
【セッション数 × CVR × 単価】を踏まえ、理想とする売上目標(=KGI)達成に必要な数字を、KPIとして設定します。例えば、売上目標の10億円に対して、以下のような指標が設定できます。
例)売上目標の10億円に対するKPI設定
STEP3)ECサイトのフロー図を書く
KPIを設定した後、ユーザーがECサイトを訪れてから注文完了に至るまでの流れを、上図のようなフロー図にします。ここでは、ECサイトの売上を構成する【セッション数 × CVR × 単価】のうち、【セッション数】と【CVR】に焦点を置き、シンプルな図としています。
上図では、縦軸にECサイトへの流入チャネルを並べ、横軸には、ECサイトへの流入から注文完了までのステップ(ランディングページ→カート投入→注文フロー→注文完了)を置いています。
設定したKPIを基に、各ステップでの目標値を、フロー図の上段(オレンジ枠)に入れます。
STEP2において、具体例として、売上目標10億円に対して100万セッションをKPIに設定しました。ECサイトへの流入経路は、自然検索や有料検索(リスティング広告)、ディスプレイ広告、メールマガジン、SNSなどさまざまです。
ここでは、セッション数のKPIとして設定した100万セッションの半分である50万セッションを、自然検索から獲得すると仮定して目標値をフロー図に入れます。そして、自然検索で流入した50万セッションのうち何%が次のステップに進むのか、遷移率の目標値を設定して、最終的に購入に至るセッション数まで、目標値を入れます。
STEP4)現状のデータを取得する
各ステップの遷移率について目標値が決まったら、現状の数値を把握して目標値と比較できるよう、フロー図下段(青枠)に入れます。フロー図に入れるための現状の数値は、Googleアナリティクスから取得しましょう。
ここでは、自然検索:45万、カート投入:4.5万、注文フロー:1.2万、注文完了:0.6万という数値で仮定します。数値を入れたら、各ステップの遷移率も記入します。ここまでで、ECサイト運営における目標値と現状の数値の比較表が完成しました。
STEP5)理想とのギャップを見つける
フロー図に記入した理想とする目標値と現状の数値を比較して、現状の数値が目標値よりも低く、特に開きが大きい箇所に注目します。そういった箇所は、ボトルネックとなっている可能性が高く、改善することで効率良く売上アップに直結するケースがあります。
STEP4で記入したフロー図を見ると、ランディングページからカート投入へと進むカート投入率が課題として考えられます。
その前のステップの、ランディングページ:50万セッションの目標値に対して現状の45万セッションという数字も差はあり、改善による売上アップは見込めますが、それより差が大きいカート投入率を高めるほうが、より効率良く売上を伸ばせそうです。
STEP6)仮説を立てる
ECサイトのフロー図の目標値と現状の数値を比較して、ボトルネックとなっている可能性が高い箇所を見つけたら、その原因について仮説を立てます。
例えば、カート投入率が低い場合、「商品情報の記載が少ない」「購入者のレビューがない」といった商品ページの問題や、「探している商品が見つからない」「サイト内検索が使いづらい」などの理由が考えられます。このように具体的な仮説を立てることで、取り組むべき課題が明確になります。そして、課題解決のために「商品ページを充実させる」「レビューを集める」「商品カテゴリの改善」といった取り組みを行い、効果を検証します。
STEP+α)分析の軸はさまざま
ここまで、自然検索での流入から購入に至るまでのシンプルなステップを説明してきましたが、分析軸は目的に応じて変更することができます。分析軸を変えることで、見えてくる課題も変わります。
上図では、縦軸に自然検索以外の流入チャネルについてもセッション数を入れています。横軸には、各チャネルの新規とリピートの割合と単価を置いています。このような分析軸で目標値と現状の数値を比較することで、セッション数の向上が必要なチャネルや、新規購入とリピート購入のどちらを強化すべきなのか、あるいはセッション数は取れているものの単価の向上が必要など、さまざまな改善点が見えてきます。
先述したECサイトのフロー図の考え方をベースに、チャネルや新規顧客とリピーターなどの「属性」、PCもしくはスマートフォンなどといった「デバイス」など細分化していくことで、ECサイト全体の動きを踏まえ、売上を伸ばすためにあたって課題となっている部分が見えやすくなります。その課題に対して、集客数の強化やページ制作での工夫など、具体的な施策を検討していくことが重要です。
ECサイトの分析は目的ではなく手段
ECサイトの分析は、あくまでもECサイトの課題を見つけるための手段です。ECサイトでは、さまざまな数値を収集できるため、いつの間にか分析することそのものが目的になってしまっていることがあります。分析結果を出すための分析、社内に報告するための分析になっていないか気をつけましょう。
分析後は、ECサイトの売上向上において、課題となっている箇所を解消するための施策立案、施策実行後の効果検証、そしてまた次の施策へと行動しましょう。そのためにも、本記事で解説したように、ECサイトの現状の数値と設定したKPIの比較、そしてECサイトの課題を抽出することから始めてみてください。
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