新型コロナウイルスの感染拡大で巣ごもり需要が高まり、EC市場に追い風が吹いた2020年。小売企業やメーカーによるオンライン接客が活発化するなど、ECの新たな取り組みも目立ちました。
2021年はEC市場でどのようなトレンドが生まれるのでしょうか。近年の市場動向や企業業績などを踏まえ、2021年のECのトレンドを予測します。
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国内EC市場は家電や生活雑貨・インテリアなどが高成長
2019年の国内EC市場(物販)は前年比8.09%増の10兆515億円、EC比率は前年比0.54ポイント増の6.76%でした。商品カテゴリ別で成長率が特に高いのは「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」(前年比10.76%増の1兆8,239億円)と「生活雑貨、家具、インテリア」(前年比8.36%増の1兆7,428億円)です。 なお、2019年のEC市場規模や、カテゴリ別の市場動向などは「物販のEC市場規模は10兆円突破! EC関連調査データと2020年トレンドと予測」で解説しています。
商品カテゴリ別 EC市場規模の年次推移
2020年はコロナ禍でEC市場が拡大
2020年は新型コロナウイルスの影響で巣ごもり需要が高まりました。2020年の企業業績を見ると、アパレルや食品を中心にEC売上高を大幅に伸ばした企業もいます。総務省統計局「家計消費状況調査 ネットショッピングの状況について(二人以上の世帯)- 2020年(令和2年)12月分等結果」でもECサイトの消費金額が伸び、ECサイトを利用する世帯が増えたことが示されています。
「ネットショッピング」というキーワードでの検索人数も2019年と比べ、全国的に増加しています。特に緊急事態宣言が発出された2020年4月~6月の伸びは著しいものでした。
キーワードの検索人数「ネットショッピング」
緊急事態宣言でEC消費額が拡大、世帯利用率も上昇
2020年4~5月の緊急事態宣言以降、EC市場は急拡大し、利用者も増えています。総務省統計局の「家計消費状況調査 ネットショッピングの状況について(二人以上の世帯)- 2020年(令和2年)12月分等結果」によると、ネットショッピングの支出額は2020年2月から徐々に上昇し、3月以降さらに加速、4月以降は前年を上回って推移しています。
ネットショッピングの支出額の推移
2020年11月のネットショッピングの支出額は前年同月比33.2%増の1万9,090円。項目(商品・用途など)ごとの名目増減率は、食品が73.4%増、家電が70.6%増、贈答品が39.0%増、衣類・履物が33.2%増でした。
ネットショッピング利用世帯の割合の推移
「ネットショッピング利用世帯の割合」は2020年3月まで前年をやや上回る水準でしたが、4月に急上昇し、5月は50.5%、6月以降も50%前後で推移しています。
世帯主の年齢が65歳以上の世帯でもECの利用率は上昇しました。高齢者は新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいという報道などもあったことから、外出せずに買い物ができるECを利用する高齢者が増えたのかもしれません。
ネットショッピング利用世帯の割合の推移(世帯主の年齢階級別)
アパレルは実店舗からECにシフト
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、実店舗を中心にビジネスを手がけてきた企業がECを強化する動きも見られました。特にトレンドの変化が目立ったのはアパレル業界です。
アパレル業界では実店舗からECへ、販売チャネルのシフトが進みました。緊急事態宣言で実店舗の休業や時短営業を余儀なくされたほか、感染防止の観点から対面での接客を行いにくくなったことで、各社がECシフトを加速させています。
ライブコマースやチャット接客、店舗スタッフによるコーディネート投稿など、オンラインでの商品提案を強化する動きが活発化しました。株式会社ビームスや株式会社ベイクルーズなど大手アパレルメーカーがライブコマースを実施したほか、店舗スタッフがコーディネート画像をECサイトやSNSに投稿し、消費者をECサイトに誘導する取り組みも広がっています。1,200以上のブランドが利用しているコーディネート投稿システム「STAFF START」経由の流通額は、2020年は前年比2.75倍の1,104億円に拡大[1]しています。
SNS上で購入まで完結するソーシャルコマースの動向にも注目です。アパレル業界は特に、年代別のSNSの利用傾向などSNSの最新トレンドのキャッチアップが重要です。
家電量販店やホームセンターもECが拡大
2019年において特に成長率の高かった生活家電カテゴリは新型コロナウイルスの影響でEC市場の拡大に弾みがついたようです。外出自粛によって自宅で過ごす時間が増え、家庭用ゲーム機やホームシアター、調理家電、家具などの需要が高まったと考えられます。
株式会社ビックカメラ(コジマを含む)の2019年9月~2020年8月(2020年8月期)における連結EC売上高は、前期比37.0%増の1,487億円[2]でした。EC事業が拡大した背景について「コロナ禍による追い風で想定を上回る成長」と決算資料に記載しています。
上新電機株式会社の2020年4~9月期(2021年3月期 第2四半期累計)のEC売上高は、前年同期比22.6%増の340億9,500万円[3]となっています。
ホームセンター大手の株式会社ニトリの2020年3~11月期(2021年2月期 第3四半期累計)の「通販売上高」は、前年同期比59.5%増の527億円[4]。公式通販サイトにおうち時間特集を掲載するなど、イエナカ需要を取り込む施策が奏効したようです。
2021年のEC市場を予想!オンライン接客やギフトECに注目
2020年のEC事業者の業績や市場動向を踏まえ、2021年のEC市場のトレンドを勝手に予想します。
トレンドに敏感なアパレル&コスメ業界でオンライン接客がさらに加速
アパレルはオンライン接客が一層活発に
2020年のアパレル業界では、オンライン接客を強化する企業が目立ちました。そのトレンドは2021年も続いています。2020年12月にファーストリテイリンググループの株式会社ユニクロと株式会社ジーユーがライブコマース「UNIQLO LIVE STATION[5]」「GU LIVE STATION[6]」を開始。株式会社ZOZOが運営するZOZOTOWNはチャット接客の試験運用を2021年1月に始めました。
2021年1月に一部地域で緊急事態宣言が再度発令され、百貨店が営業時間を短縮するなど実店舗での販売に制限がかかっています。新型コロナウイルスの影響が続く中、アパレル企業がオンライン接客を強化するトレンドが当面続くでしょう。
高価格帯の化粧品がオンライン販売を本格化
2021年は高価格帯の化粧品ブランドがECを本格化させそうです。コロナ禍で訪日外国人によるインバウンド消費がほぼ消失したうえ、感染防止のためにカウンターでの接客を行いにくくなっているためです。
化粧品大手の一部は、すでにオンラインの施策を強化しています。株式会社資生堂は美容部員によるライブコマースを2020年7月に始めた[7]ほか、スマホで撮影した顔写真を分析してメークアイテムを提案するオンラインサービス「ワタシメイク分析」を9月に開始しました。[8]
株式会社ポーラは2020年6月にzoomを使ったオンラインカウンセリングを導入。[9]7月からは販売スタッフがWebサイトにオススメ商品を投稿し、商品画像からECサイトの商品ページへ顧客を誘導する施策[10]も始めています。
2021年にインバウンド消費が回復するか不透明なこともあり、ECに活路を求める化粧品メーカーが増えるでしょう。
親族や友人へのギフト需要が拡大
2021年はギフトECの需要が高まりそうです。誕生日や父の日・母の日などのお祝いの際、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために直接会う代わりに、ギフトを贈る消費者が増えているようです。ギフトを注文する際、感染を避けるために百貨店などのカウンターではなく、ECサイトを使う人がさらに増えると予想しています。
コロナ禍でギフトへの意識が変わったことを示す消費者調査もあります。アイランド株式会社が2020年10月に公表した、2020年のお歳暮に関する消費者調査では、「新型コロナウィルスの影響で、2019年と比べ2020年のお歳暮は贈り方や贈るもの、対応などが変わりそうですか」という質問に対して、33%が「変わる」と回答しました(「とても変わると思う」「変わると思う」の合計)。
変わると回答した理由として、「コロナ禍なので直接ではなく配達で渡すようになると思います」「実際にお盆に帰省できなかったり、会う機会が減ったから」「対面で渡せない 外食が減っている分、ビールなどより高級な食べ物や在宅時に楽しめるものにしたい」「いつもは店頭での注文だったのが今年はネットでの注文になること」「コロナ禍で会えない友人や親せきにあいさつ代わりに贈る」といった意見が挙がっています。
新型コロナウイルスの影響が長引けば、母の日、父の日、お中元などのタイミングでギフトECの需要が例年以上に高まるかもしれません。新規顧客の獲得に向けて、ギフトECの構築について検討してみるのも良いでしょう。
2020年のお歳暮に関するアンケート
旅行や外食の代わりに贅沢品を購入
2021年の年明け早々に一部地域で緊急事態宣言が発令されるなど、新型コロナウイルスの影響が当面続くと予想されることから、おうち時間を充実させる商品のニーズは引き続き高まるでしょう。
弊社が提供しているECパッケージ「HIT-MALL」で構築した百貨店ECサイトでは、2020年の年末におせちと福袋の予約販売が好調でした。年末年始に海外旅行や外食を控えた消費者が、自宅で過ごす時間を充実させるため贅沢品を購入した可能性があります。
2021年は新型コロナウイルスの影響が長引く可能性も踏まえて商品戦略を考えることが重要でしょう。
拡大するソーシャルコマースとECプロモーションのトレンド
InstagramやFacebookでソーシャルコマース
SNSのプラットフォーム上で商品を紹介し、決済まで行なう「ソーシャルコマース」が日本でも本格的に始まる可能性があります。日本でも近いうちに、InstagramやFacebookに決済機能が実装されるといわれています。
現在、SNSをECに活用する場合、SNS上に投稿したコンテンツからECサイトの商品ページに遷移させるのが一般的ですが、今後はSNS内で購入まで完了する販売方法が定着するかもしれません。
商品認知の動画媒体としてYouTubeの存在感が高まる
コロナ禍でYouTubeの視聴時間が大きく伸びたと言われています。特に若年層に対するマーケティングプラットフォームとしては、テレビをしのぐ影響力を持った媒体になりつつあるようです。
Glossom株式会社の調査によると、10〜50歳代のすべての年齢層でYouTubeの1日の平均利用時間が増えました。特に10歳代は前年比2倍以上の平均43.1分となっています。
YouTubeの1日の平均利用時間
また、株式会社クロス・マーケティングが実施したテレビとYouTubeの視聴時間に関する調査によると、10歳代の男女はYouTubeを1日当たり3時間以上視聴した割合がテレビよりも高くなっています。
YouTubeの利用実態に関する調査
こうしたトレンドを背景に、YoutuberとコラボレーションしたD2Cも活発化しています。
株式会社ロコンドは2020年4月に人気Youtuberのヒカルさんと共同開発した靴を発売し、1か月で約7億円を販売しました。Youtuberを広告塔として起用するだけでなく、商品化に至るまでの経緯をヒカルさんの動画で公開し、受注生産方式で商品を販売。予約開始直後に売れ行きを動画で報告し、コメント欄に寄せられた意見を次の商品開発に生かすと動画内で約束するなど、消費者とYoutuberの距離の近さを演出したことも成功の一因と考えられます。
このような成功事例が出てきたことで、ECのプロモーションにYoutuberを活用する動きがさらに広がりそうです。
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在宅ワークで自宅用事務用品や昼食宅配のニーズ
近年の働き方改革に加え、在宅ワークやテレワークが広がったことで、自宅で使う仕事用のデスクや事務用品を購入する消費者が増えており、在宅ワークのニーズに応えるECのサービスもすでに登場しています。
株式会社アスクルは月額制のオフィス家具レンタルサービスを2020年12月に1都3県で始めました。[11]テレワークの従業員が期間限定でパソコンデスクなどを利用することを想定しているようです。
在宅ワークの増加により、自宅で昼食をとる人が増えるため、宅配弁当などのニーズもさらに高まるでしょう。「ウーバーイーツ」など飲食店の宅配サービスだけでなく、オイシックス・ラ・大地株式会社などが強化しているミールキットや、株式会社セブン-イレブン・ジャパンなどが展開しているネットコンビニの利用もさらに広がりそうです。
まとめ
2020年はEC市場が拡大し、EC売上高を大きく伸ばした企業が目立ちました。2021年も新型コロナウイルスの影響は続いており、巣ごもり需要の高まりなどでEC市場は拡大するでしょう。
一方、実店舗が主要チャネルであった企業が次々とECに本格参入するなど、EC市場の競争は激しさを増しています。これまで長年にわたり通販のビジネスを行ってきた企業の中には、市場競争の波にのまれた企業もあったようです。
2021年後半〜2022年は実店舗回帰でリベンジ消費も
新型コロナウイルスのワクチンが行き渡り、感染拡大が収束に向かえば、2021年後半から2022年にかけて実店舗回帰の動きが起こるかもしれません。実店舗での買い物を我慢してきた消費者が、反動で支出を増やすリベンジ消費も期待できます。
今は実店舗からECサイトへという流れを強化する時期ですが、新型コロナウイルスの感染拡大が収束した後はECサイトで新たに獲得した顧客が実店舗にも来店するよう、関係の強化も重要でしょう。
EC市場に追い風が吹いている2021年は新しい顧客を獲得するチャンスです。ただし、それは同時にせっかく集めた顧客が競合他社に流れやすい環境でもあります。市場動向や他社の取り組みを定期的にウォッチしておきましょう。